病院のRPAは、クリニックより作業が見つけやすく、動かし始めるのが難しいという特徴があります。手順が決まった作業はいくらでもあるのに、部署と権限とシステムが分かれているせいで、決めることが先に立つからです。
ここでは、病院でRPAが効く場所と、着手前に決めておくことを整理します。
先に立場を書いておきます。私たちが毎日動かしているのは自院のクリニックのもので、病院での導入実績を掲げているわけではありません。ただ、機械に渡せる作業の条件は規模が変わっても同じです。以下は、その条件を病院の業務に当てはめたものです。
病院でRPAが効くのは、部署をまたがない作業から
RPAの候補を挙げると、たいてい「部署をまたぐ大きな流れ」から出てきます。入院から退院までの情報の受け渡し、医事課と病棟のやり取り。効きそうに見えますが、関わる人が増えるほど、決めることも増えます。決めることが多い案件は、動く前に止まります。
1本目は逆にしてください。1つの部署の中で完結し、その部署の人だけで「毎日こうやっています」と説明できる作業です。効果は小さく見えますが、動いたという事実が次を通します。
医事課で対象になりやすい作業
病院の中で、手順が決まった作業がいちばん濃く固まっているのが医事課です。
| 作業 | いま起きていること | 機械に渡せるか |
|---|---|---|
| 日次・月次の集計 | 複数の画面から数字を拾い、決まった様式に貼り直す | 渡しやすい |
| レセプトの一次チェック | 算定漏れや入力の抜けを、決まった観点で目視する | 一次チェックまでは渡せる。最終判断は人 |
| 統計・報告資料の作成 | 毎月おなじ抽出条件で、おなじ表を作り直す | 渡しやすい |
| 外部サイトの確認と転記 | 更新があるか毎日見に行くこと自体が仕事になっている | 渡しやすい |
| 未収金の突き合わせ | 入金データと請求データを1件ずつ照合する | 照合までは渡せる。消込の判断は人 |
注意したいのは、「チェック」と「判断」を分けることです。決まった観点で洗い出すところまでは機械が速く、確実です。そこから先の「これは算定していい/いけない」は人の仕事で、渡してはいけません。
部門システム間の「転記」は、いちばん分かりやすい対象
病院には部門システムが多く、それぞれが独立しています。検査、放射線、給食、勤怠、購買。連携していないところは、人が画面を見ながら打ち直しています。
この「片方から出して、もう片方に入れる」は、機械に渡せる作業の典型です。システムを改修せず、いまの画面と手順のまま動かせるのがRPAの利点で、部門システムの入れ替えを待たずに済みます。ただし、書き込む側のシステムについては、外部から操作してよいかを規約と接続方法の両面で先に確認します。
病院で先に決めること(クリニックとの違い)
クリニックなら、院長が「やろう」と言えばその日に始められます。病院はそうはいきません。着手前に、次の3つだけは決めておいてください。
- どのIDで動かすか。個人のアカウントを借りて動かす形にすると、その人が異動した日に止まります。運用用のIDと権限範囲を決めます
- 誰が結果を確認するか。自動になっても、当面は人が結果を見ます。見る人と、見る頻度を先に決めます
- 止まったとき、誰が気づくか。気づける形にしておけば、その日は手作業に戻すだけで済みます。気づけない形が、いちばん危険です
この3つは技術の話ではなく、運用の話です。ここを飛ばすと、動いたあとで止まります。
やらないこと
- 診断や治療の判断に関わる処理
- 電子カルテ・医事会計システムそのものの改造
- ご利用中の製品の規約に反する接続
- 算定や請求の可否そのものを機械に決めさせること
やるのは、人が最後に見る手前までです。そこから先は人が持ちます。
よくある質問
病院でRPAは何から始めるべきですか
1つの部署の中で完結する作業からです。医事課の日次・月次集計、統計資料の作成、外部サイトの確認と転記あたりが入口になります。部署をまたぐ流れは効果が大きく見えますが、決めることが増えて動き出せません。1本動かしてから広げる順番にしてください。
レセプト業務は自動化できますか
一次チェックまでは渡せます。決まった観点で算定漏れや入力の抜けを洗い出すところは、機械のほうが速く、見落としません。ただし算定の可否そのものは人の判断なので、機械には決めさせません。洗い出した結果を人が見る、という形になります。
電子カルテや医事会計システムを入れ替える必要がありますか
ありません。RPAは、いまの画面と手順をそのまま代行させる仕組みです。システムを改修せずに始められるのが利点で、部門システムの入れ替え計画を待つ必要もありません。書き込みを伴う場合だけ、ご利用中の製品の規約と接続方法を先に確認します。
情報システム部門がなくても導入できますか
できます。ただし、動かすIDと権限、結果を確認する人、止まったときに気づく人。この3つを決められる方が院内に1人必要です。技術の担当ではなく、運用を決められる立場の方という意味です。
市販のRPAツールとは何が違いますか
私たちはツールを売らず、Pythonで書いています。ライセンスの本数で縛られず、画面の作りに引きずられず、やりたいことをそのまま書けるからです。中身はコードとして残るので、書いた本人以外でも読めます。詳しくはクリニック・病院・介護施設のRPAのページに書いています。
最後に
病院のRPAで難しいのは、対象を見つけることではありません。決めることを先に決めて、小さく1本動かすことです。動いた1本が、次の合意をいちばん早く取ってくれます。
いま医事課で毎日やっている作業をひとつ挙げていただければ、それが対象になるかどうかをその場でお答えできます。
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