クリニックを法人で開くとき、医療法人にするか、一般社団法人にするか。この2つは「どちらが上」という関係ではなく、性格の違う道具です。
年間15院以上の開設に関わる立場から、制度の違いと、実務でどこが効いてくるのかを並べて書きます。最後に、私たちがどう考えているかも書きます。
いちばん大きな違いは、設立に認可が要るかどうか
細かい話に入る前に、ここだけ押さえれば大半は理解できます。
医療法人は、都道府県知事の認可を受けないと設立できません。申請の受付時期が決まっている自治体が多く、年に数回しか窓口が開きません。そこに書類を出し、審議を経て認可が下り、そのあと登記します。
一般社団法人は、認可が要りません。定款を作って公証人の認証を受け、登記すれば成立します。誰かの判断を待つ工程がないので、自分たちの都合で日程を組めます。
この一点から、時間、事業の広げ方、行政との付き合い方まで、ほとんどの違いが派生します。
一般社団法人と医療法人の違いを、一覧で
| 項目 | 医療法人 | 一般社団法人 |
|---|---|---|
| 根拠となる法律 | 医療法 | 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 |
| 設立の手続き | 都道府県知事の認可を受けたうえで登記 | 定款認証と登記のみ。認可は不要 |
| 設立までの期間 | 申請の受付時期に左右される | 設計が固まっていれば短期間で設立できる |
| 代表者の資格 | 理事長は原則として医師・歯科医師である理事から選ぶ | 代表理事に資格要件はない |
| できる事業の範囲 | 本来業務と、医療法で認められた附帯業務に限られる | 定款に定めれば、事業内容の制限はほぼない |
| 利益の分配 | できない | できない |
| 行政の関与 | 毎年度の届出があり、継続的な指導監督を受ける | 医療法人ほどの継続的な監督はない |
| 税務上の扱い | 法人税の課税対象。医療分野の特例が別途ある | 非営利型に当たれば収益事業のみ課税、当たらなければ全所得課税 |
| 診療所の管理者 | 医師(歯科は歯科医師) | 医師(歯科は歯科医師) |
管理者が医師でなければならない点だけは、どちらを選んでも同じです。ここは動きません。
違い1:開設までの時間の読み方が変わる
医療法人は、認可の日程が先に決まっています。物件が決まっても、採用が進んでも、その日程まで待つことになります。逆に言えば、そこから逆算して全部を組み立てる進め方です。
一般社団法人は待ち時間がないぶん、時間の使い方が前に寄ります。設立自体は早いのですが、その前に決めることが多い。誰を社員にするか、非営利性をどう担保するか、定款の目的をどこまで広げるか。ここを飛ばして設立すると、あとで作り直すことになります。
「早い」と聞いて楽だと思うと、たいてい最初でつまずきます。負荷の総量が減るのではなく、かかる場所が前にずれる、という理解が実態に近いです。一般社団法人でのクリニック開設のデメリットにも、この点は詳しく書きました。
違い2:やれる事業の範囲が変わる
実務でいちばん効いてくるのが、ここだと思っています。
医療法人ができる事業は、医療法で決められています。診療所や病院を運営する本来業務のほかは、認められた附帯業務の範囲に限られます。範囲の外に出る事業は、その法人では行えません。
一般社団法人には、この制限がありません。定款の目的に書いておけば、事業の内容を法律で縛られることは基本的にありません。
自由診療を軸にしたクリニックだと、この差が出ます。オリジナルの化粧品やサプリメントを作って売る、他業種と組む、教育や研修を事業として持つ。こうした広げ方を想定しているなら、事業の器としての自由度は無視できません。
ただし注意点があります。自由に事業を組めることと、非営利性を保つことは別の話です。利益を構成員に分配しないという原則は、一般社団法人でも変わりません。何をやってよいかではなく、稼いだものをどう扱うかで見られます。ここを曖昧にしたまま広げると、あとで説明できなくなります。
違い3:代表者に医師免許が要るかどうか
医療法人の理事長は、原則として医師・歯科医師である理事から選びます。例外の扱いはありますが、原則はこうです。
一般社団法人の代表理事には、資格の要件がありません。医療資格をお持ちでない方が代表理事を務めることができます。
くり返しになりますが、診療所の管理者は医師でなければなりません。これは法人のかたちに関係なく必要です。つまり一般社団法人を選ぶと、経営を担う人と診療を担う人を分けて置ける、ということです。
医療の事業に取り組みたいが自身は医療資格を持っていない、という方からのご相談は、実際にいちばん多い入口です。
違い4:行政との付き合い方が変わる
医療法人は、設立後も都道府県との関係が続きます。毎年度の届出があり、役員が変われば届け出ます。手間ではありますが、行政に認められた法人であるという説明のしやすさが付いてきます。金融機関との話でも、この点は効きます。
一般社団法人は、医療法人のような継続的な監督はありません。ただし診療所としての医療法上の義務は同じです。そして、説明の負担は開設のときに来ます。保健所によっては、なぜこのかたちを選んだのかを丁寧に尋ねられることがあります。
背景には、営利を目的とする主体が実質的に医療機関を運営することへの警戒があります。制度として認められている以上、かたちを理由に断られるものではありません。ただ、説明できる状態を作っておく必要はあります。
違い5:税務の考え方が変わる
医療法人は法人税の課税対象で、医療分野に固有の特例が別途あります。
一般社団法人は、非営利型に当たるかどうかで扱いが変わります。非営利型の要件を満たせば、課税されるのは収益事業から生じた所得に限られます。満たさなければ、普通法人と同じく全所得が課税対象です。
この要件は、定款の書き方と理事の構成に関わります。設立してから整えるのが難しい部分なので、税理士と早い段階で確認しながら決めることになります。どちらが有利かは事業の中身で変わるため、一般論では決められません。
ソクラクだと、こう考えます
ここからは制度の説明ではなく、私たちの実務の話です。
私たちは一般社団法人でのクリニック開設を多く扱っています。ただ、最初から一般社団法人を勧めているわけではありません。うかがったうえで「このケースなら医療法人のほうがよいと思います」とお伝えすることもあります。
ご相談が一般社団法人に向かうのは、だいたい次の3つのどれかが理由です。
- 開設の時期を自分で決めたい — 物件や採用の都合が先にあり、認可の日程に合わせられない
- 数年先の承継や拠点展開を考えている — 法人を器として残し、理事の交代で引き継ぎたい
- 経営を担う人が医療資格を持っていない — 管理者となる医師と組んで進めたい
この3つのどれにも当てはまらないなら、無理にこのかたちを選ぶ理由は薄いと思っています。既製の枠に乗れるぶん、他のかたちのほうが手数が少なくて済みます。
私たちが手を動かしているところ
支援の中心は、機関設計と保健所申請です。誰を社員にするか、理事をどう置くか、定款の目的をどこまで広げるか。そして、そのかたちを保健所にどう説明するか。ここが決まらないと先に進めないので、私たちはここから入ります。
逆に、物件の選定や体制の組成は、私たちが直接やる領域ではありません。パートナーをご紹介して、全体の進行をこちらでまとめる形になります。支援範囲は最初にはっきりお伝えしています。
どちらを選ぶかの目安
| こういう場合 | 向いているかたち |
|---|---|
| 開設の時期を自分で決めたい | 一般社団法人 |
| 経営を担う人が医療資格を持っていない | 一般社団法人 |
| 診療以外の事業も同じ法人で持ちたい | 一般社団法人 |
| 数年先に誰かへ引き継ぐ可能性がある | どちらでも可能。法人を器として残せる点は共通 |
| 保険診療が中心で、時期にも制約がない | 医療法人 |
| 金融機関や取引先への説明を軽くしたい | 医療法人 |
手段なので、目的に合っていなければ選ぶ理由がありません。迷っている段階でうかがえれば、そもそもどちらが向いているかからお話しできます。
よくある質問
一般社団法人と医療法人では、どちらが設立しやすいですか
手続きの数だけで見れば一般社団法人です。認可が要らず、定款認証と登記で成立します。ただし設立の前に決めることが多く、そこに時間がかかります。医療法人は認可の受付時期を待つ必要がある一方、進め方の型が確立しているぶん、決めるべきことは見えやすいと言えます。
一般社団法人から医療法人に変更できますか
一般社団法人がそのまま医療法人に変わる、という組織変更の制度はありません。医療法人にする場合は、あらためて医療法人を設立し、開設者の変更というかたちでクリニックを移すことになります。実際に行われている進め方ですが、手間はかかります。将来その可能性があるなら、定款の目的や資産の持ち方を最初から相談しておくと動きやすくなります。
一般社団法人だと、医療法人より不利に見られませんか
説明の手数が増えるのは事実です。金融機関にも保健所にも、医療法人を前提とした型があるためです。ただし、かたちを理由に断られるものではありません。なぜこのかたちを選んだのか、非営利性がどう保たれているのか、経営と診療の役割がどう分かれているのか。この3点を説明できる状態で臨めば、話が止まることはほとんどありません。
どちらのほうが税金は安くなりますか
事業の中身によって変わるため、一般論では決められません。一般社団法人は非営利型に当たるかどうかで課税範囲が変わり、医療法人には医療分野の特例があります。収益の構成や規模で結論が変わるので、早い段階で税理士に見てもらうことをおすすめしています。かたちを決めてから税務を考えると、定款を作り直すことになりがちです。
すでに個人で開業していますが、いま法人にすべきですか
税負担だけを理由にするなら、まず試算してからで構いません。法人化が効いてくるのは、承継を考えている場合、分院を出す場合、そして管理者の交代が想定される場合です。個人開業だと開設者が替わるときに廃止と新規開設の扱いになりますが、法人が開設者であればその手間がありません。詳しくは個人開業から一般社団法人へにまとめています。
最後に
一般社団法人と医療法人の違いは、突き詰めると「認可を待つ代わりに型に乗るか、自分で決める代わりに自分で説明するか」だと思っています。どちらが優れているという話ではありません。
決めるべきは、何をやりたいのか、いつ始めたいのか、誰と組むのか。そこが決まれば、かたちは自然に決まります。順番が逆になると、あとで作り直すことになります。
関連ページ
- 一般社団法人でのクリニック開設のデメリット — 選ぶ前に知っておきたいこと
- クリニック開業コンサル・支援 — 一般社団法人を使った開設の進め方と、支援する範囲
- 個人開業から一般社団法人へ — すでに開業している方の法人化
- クリニックのM&A・承継 — 引き継ぐ、または譲る場合
※ 本記事は制度の一般的な説明と、当社が開業支援の実務で得た知見をまとめたものです。制度の運用は自治体や時期によって異なります。登記は司法書士、官公署に提出する書類の作成は行政書士、税務は税理士の領域であり、個別の判断はそれぞれの専門家とご確認ください。


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