「一般社団法人でクリニックを開く」という選び方について、良い面ばかりが語られることがあります。私たちは年間15院以上の開設に関わっていますが、正直に言えば、この選び方には最初にしんどい部分があります。
後から知って困るより、先に知っておいたほうがよいことを、実務の側から書きます。
先に、なぜこの選択肢があるのか
デメリットの話をする前に、そもそも何のためにこのかたちを選ぶのかを短く書いておきます。理由は大きく3つです。
ひとつめは、早いこと。医療法人は都道府県の認可が必要で、申請の受付時期が決まっています。そこに合わせるしかないため、物件や採用の予定と噛み合わないことがあります。一般社団法人は登記で設立できるので、認可の順番待ちが発生しません。開設の時期を自分たちで決められます。
ふたつめは、承継しやすいこと。個人開業だと、開設者が替わるときに廃止と新規開設の扱いになります。法人が開設者であれば、法人はそのままに、理事の交代というかたちで引き継げます。何年か先に誰かに渡す可能性があるなら、ここは効いてきます。
みっつめは、代表理事が医師でなくてもよいこと。ここは誤解が多いので分けて書きます。診療所の管理者は医師(歯科は歯科医師)でなければなりません。これは動かせません。一方で、開設者である法人の代表理事まで医師である必要はありません。
つまり、経営を担う人と診療を担う人を分けて置くことができます。医療資格をお持ちでない方が医療事業に取り組む場合も、管理者となる医師と組むことで進められます。実際、この点を理由にご相談をいただくことが最も多いと感じています。
この3つが要らないのであれば、無理にこのかたちを選ぶ必要はありません。以下のデメリットを引き受ける意味が薄いからです。
デメリット1:資金調達で、既製のパッケージに乗りにくい
これが一番わかりやすく効いてくる部分です。
クリニックの開業資金には、医師・医療法人を想定した商品や制度が整っています。金融機関の側にも「この診療科ならこのくらいの設備でこのくらいの資金」という型があり、話が早く進みます。ところが一般社団法人で開設するとなると、その型から外れます。
断られるという話ではありません。「決まった枠に当てはめる」から「一から説明する」に変わる、ということです。法人のかたち、誰が経営を担い、誰が診療を担うのか、収支の見通しをどう立てているのか。これらを自分の言葉で説明できる状態にしておく必要があります。
準備なしで窓口に行くと、時間だけがかかります。逆に言えば、事業計画と法人の設計をセットで用意できていれば、話は進みます。私たちが最初に事業計画から入るのは、この理由が大きいです。
デメリット2:しんどい設計が、いちばん最初に来る
これが実務でいちばん重い部分です。一般社団法人は、作ってから考えるということがしにくい。面倒な決めごとが、設立の前にまとめてやってきます。
「社員」が、いわゆる従業員ではない
ここは最初にほぼ全員が引っかかります。一般社団法人でいう社員とは、法人の構成員のことで、社員総会で議決権を持つ人です。受付や看護師といった働く人のことではありません。
誰を社員にするかは、あとから効いてきます。議決権を持つ人が誰かということは、その法人の意思を最終的に誰が決めるかということだからです。設立時に人数合わせで決めてしまい、数年後に困る、というのは避けたい形です。
非営利性をどう担保するか
一般社団法人は、利益を構成員に分配しない法人です。ここは定款の書き方、理事の構成、そして日々の運営の実態の3つで担保していくことになります。
また、非営利型として要件を満たすかどうかで税務上の扱いが変わります。この判断は税理士と確認しながら決める領域です。「とりあえず設立してから考える」ができない部分であり、ここを飛ばして進めると、あとで定款を作り直すことになります。
定款の目的を、どこまで広げておくか
1院だけで終わるのか、2院目を出すのか、将来どう渡すのか。ここが決まっていないと、目的の書き方が決まりません。狭く書きすぎて後から変更する、という手戻りがよく起きます。
まとめると、設立が早いぶん、その前の設計に時間を使うということです。トータルで楽になるわけではなく、負荷のかかる場所が前に寄る、と捉えるのが実態に近いと思います。
デメリット3:保健所によっては、確認が丁寧になる
これは近年の実務感覚として、はっきり書いておきます。
診療所の開設届を出す先は保健所です。一般社団法人による開設は制度として認められていますが、地域や担当者によっては、医療法人や個人開設に比べて確認が細かくなることがあります。なぜこのかたちを選んだのかを丁寧に尋ねられる、という場面が以前より増えている印象があります。
背景には、営利を目的とした主体が実質的に医療機関を運営することへの警戒があります。そう見えるかどうかを、書類と説明で判断されている、ということです。
ここで大事なのは、これは避けるべき壁ではなく、説明すべき事柄だということです。私たちが関わってきた範囲では、次の3点を最初から用意して臨めば、話が止まることはほとんどありません。
- このかたちを選んだ理由を、事業の中身に即して説明できること(時期の都合、将来の承継、拠点展開など)
- 非営利性が、定款・理事構成・運営の実態として一貫していること
- 誰が経営を担い、誰が診療を担うのかが、書類と実態で食い違っていないこと
逆に、この3つが曖昧なまま窓口に行くと、当然ながら確認は長引きます。「一般社団法人だから止まった」のではなく、「説明できていないから止まった」ということが実際には多いと感じています。事前の相談を含めて、コミュニケーションを丁寧に取ることがそのまま近道になります。
整理すると
| 論点 | 一般社団法人で開く場合 | どう向き合うか |
|---|---|---|
| 設立までの時間 | 登記で設立でき、認可の順番待ちがない | この選び方の主な理由。時期を自分で決められる |
| 承継 | 法人はそのままに、理事の交代で引き継げる | 渡す予定があるなら早めにこの形にしておく |
| 代表者の資格 | 代表理事は医師でなくてよい(管理者は医師が必要) | 経営と診療を分けて置ける。管理者となる医師との体制を先に決める |
| 資金調達 | 医師・医療法人を前提とした既製の枠に乗りにくい | 事業計画と法人設計をセットで用意してから相談する |
| 初期の設計 | 社員・非営利性・定款の目的を先に決める必要がある | 負荷が前に寄る。ここに時間を使う前提で日程を組む |
| 保健所対応 | 確認が丁寧になることがある | 選んだ理由を説明できる状態で臨む。事前相談を挟む |
向いている場合、向いていない場合
向いていると思うのは、開設の時期を自分で決めたい方、何年か先の承継や拠点展開を視野に入れている方、経営と診療の役割を分けて考えたい方、そして医療資格をお持ちでないまま医療事業に取り組みたい方です。
あまり向かないと思うのは、1院を自分の代で完結させる前提で、時期にも特に制約がない方です。その場合は、既製の枠に乗れる分だけ他のかたちのほうが手数が少なくて済みます。
私たちは一般社団法人での開設を多く扱っていますが、話をうかがったうえで「このケースなら別のかたちのほうがよいと思います」とお伝えすることもあります。手段なので、目的に合っていなければ選ぶ理由がありません。
最後に
ここまで書いたデメリットは、どれも「知らずに進めると詰まる」類のもので、知ったうえで準備すれば越えられるものです。逆に言えば、下調べなしで始めるには向いていない選び方だと思います。
迷っている段階でのご相談で構いません。いまの状況をうかがえば、そもそもこのかたちが向いているかどうかからお話しできます。
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この記事を書いた人|共同代表山田 慎也
2014年 京都大学大学院卒。株式会社GRIでシニアデータアナリストを務めたのち、六本木・札幌でAGAクリニックを創業。メンズケアクリニック、AFRODE CLINIC など、多数のクリニック開業を手掛ける。株式会社Medical Wellness Partners 共同代表として、医科・歯科の開業支援と自社クリニックの運営を行う。
※ 本記事は制度の一般的な説明と、当社が開業支援の実務で得た知見をまとめたものです。登記は司法書士、官公署に提出する書類の作成は行政書士、税務は税理士の領域であり、個別の判断はそれぞれの専門家とご確認ください。保健所の運用は地域や時期によって異なります。


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